誰でも運転士になれるゲームを知っているか?

幼き日の記憶

幼い少年は父親に連れられてショッピングセンターに行けば「ゲームコーナー」で無我夢中に遊んだものだ。

そんなある日「ゲームコーナー」に衝撃的なゲーム機が設置された。

そのゲーム機は「電車でGO!」そんな名前を少年は一度も聞いたことが無かった。独特なネーミングはすぐ脳内にインプットされた。これが後の大ヒットゲームになるなんて誰がしただろうか。

少年はそのゲーム機を、ただただじっと眺めていた。見たことのない関東や関西の電車が、ブラウン管の中で生き生きと動いている。その画面の手前に、子供心くすぐる電車の運転台、運転のデモンストレーションが繰り返し再生されている。

子供心くすぐるそのゲームを今すぐやりたい。しかし100円を入れなければ始まらないことぐらい少年は百も承知。すぐ少年は父親にお金をねだり続けるのであった。

少年からすれば100円は大金、父親からそれを受け取った私はすぐに投入口に放り込む。この数秒のうちに父親の小遣いは失われていったのだ。敬意を込めて指導運転士(父親)と呼ばせてもらおう。少年は先ほどまでおねだりした態度から一変し、感謝の気持ちも伝えずゲームに夢中である。そう、ゲームさえできればそれで構わないのだ。

お構いなく運転席に座るが、警笛ペダルに足が届かない。仕方なく指導運転士(父親)を呼び膝の上に座りながらマスコンとブレーキを握る。電車の先頭号車をガラス越しに見ていた運転席を今こうし疑似体験できているのだ。

 スタートボタンを押すと起動音と共に路線の選択が始まる。初代は山陰本線、東海道本線、京浜東北線、山手線の4路線が収録されていた。漢字など読めるわけがないくせに、適当な操作をする少年は山陰本線のキハ58系の写真を真っ先に選択。

指導運転士(父親)はただ座っているだけ、私の下僕だ。上司部下であれば最悪な関係であろう。指導など全て無視を決め込むの質の悪さである。

選んだ山陰本線は初心者に適した路線であった。しかし初心者でも年齢が低すぎる少年は読めない漢字だらけ、訳も分からず適当な解釈で始めるとした。まず始めるためにマスコンを「切」、ブレーキを「非常」位置にもっていけばゲームが始まる。

運転の仕方も全く知らないくせに、画面に映し出される光景とマスコンを握れた事にただただ興奮していた。

この瞬間だけは私も運転士になることが出来たのだ

扉が閉まると戸じめ表示灯が点灯、いよいよ出発進行だ。マスコンを入れるとディーゼルカーは重低音を響かせて重い車体を時速60㎞まで加速させていく。

尻に伝わるガタゴトという振動が激しくなる、次の停車駅まであとわずか。ブレーキの扱いなど全く知らない少年がうまく操作できるわけがない。

停止位置が迫ってくる。指導運転士(父親)がお構いなくブレーキをかけようとするが、ハンドルを握っているのは少年運転士。あえなく指導を無視。

少年運転士がここだというところでブレーキをかける。今じゃ考えられない「非常」位置でブレーキをかける。とんでもない当てずっぽうのブレーキ扱いで、急制動がかかり車輪が火花を上げている映像が流れた。急制動による減点画面が表示された次の瞬間、男性と女性の悲鳴が起きた。どうやら華麗なブレーキ操作によって車内は阿鼻叫喚の地獄らしい。

この画面上は少年運転士が乗客の命を預かって運転しているのだ。悲鳴を上げている乗客はちびっ子が運転していることを知っているのだろうか?そんなことも知る由もないまま乗り込んだ暴走列車に人生を左右されようとしている。嗚呼不運。

少年運転士の的確なブレーキ操作で、無事に停止位置をオーバーラン。リザルトでは画面からキハ58系はフレームアウト。停止位置不良による持ち時間40秒が一瞬にして消えて無くなった。持ち時間が無くなることは「ゲームオーバー」を意味する。

少年は運転継続が許されなかったのだ。少年は状況を呑み込めていない。なぜ私の運転がおかしかったのか?反省する箇所は無い。そう思っているうちは一生運転士になれない。

指導運転士(父親)に追加の100円が欲しい目線を送る。しかし指導運転士(父親)は頑なにと財布のひもを緩めない。私の運転を見て業務中断をせざる得ない判断に至ったのだろう。

元々1回のみの限定運行だったらしい、指導者権限による運転継続が困難と判断されたのだ。それもそうだ停止位置を考慮しないブレーキ操作によって乗客を傷つけたのだから。その運転には100円の追加価値すらなかったのだ。

指導運転士(父親)による業務遂行能力が無いと判断された私は運転士の任を解かれることになった。そして少年運転士は指導運転士に連れられ買い物コーナーに消えてゆくのであった。

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少年から青年へ

「電車でGO!」の衝撃から、十余年。

気付けば少年は、10代の青年へ成長を遂げていた。

プレステ2の起動ボタンを押せば、自宅で誰でも運転士になれる時代であった。青年は無我夢中でコントロールを握り、ゲームをプレイしている間だけ運転士になることが許されるのだった。

少年が青年から変貌する間に電車でGO!は大きな変貌を遂げた。数多くのヒット作品に恵まれたのだがゲームの終焉は訪れてしまった。

PS2ゲーム機用の電車でGO!FINAL編の登場である。

青年が最後にプレイしたシリーズの最後であった。ここまでリアリティあふれる鉄道運転シミュレーターがどこにあるだろうか?ファイナルらしく成長を遂げたこのソフトは運転可能な列車が増やされている。

厳しい条件をクリアすれば、電気機関車まで運転できるのだ。こんな魅力的なシミュレーターゲームがどこにあるのだろうか?

運転ルールを覚えた途端、青年はただただ運転に打ち込んできた。ダイヤ通りの運転、乗客に不快なブレーキにならないブレーキ操作、停止位置に0cm停車する技術を磨き上げてきた。

少年運転士から青年運転士に成長を遂げた分、物わかりのいい青年に成長できた。この青年がのちの本物のマスコンとブレーキを握ることになるとは誰が想像できたのだろうか?

惜しまれつつ、電車でGO!FINAL以降家庭用ゲーム機での発売はされず。それ以降このゲームは陰に隠れてしまった。

そして私もゲーム機を卒業。社会人となり、年を重ねれば懐かしい思い出と共にこのゲームは過去の記憶に埋もれていくのであった。

ついに帰ってきた

時は経ち、その青年はゲームのコントローラーではなくマスコンとブレーキを握って本物の電車を運転するのであった。そんなゲームの世界から鉄道の運転士になるなんて、誰が想像しただろうか?そんな仕事に就くことなんて私自身予想だにしなかった。

社会人になった私は鉄道整備士へと成長。電車運転士の免許を取得してから運転業務に励んでいる。日々の業務に忙殺され、ゲームの記憶など忘れかけている。所帯持ちになれば我が家にあるPS4は塩漬け、ゲームなどする余裕もないそんな矢先であった。

あの電車でGO!が16年ぶりにPS4で帰ってくるニュースを知ったのだ

何だこの衝撃は・・・。私にとっては大ニュースであった。あの大ヒットを遂げた電車でGO!がPS4の家庭用で帰ってくるというのだ。

舞台は東京のJR山手線を中心とした路線だ。初代から今まで収録されてきた定番路線である。鮮やかなグラフィック、そして1996年の山手線の風景から様変わりした街並みを再現させている。

購入できる気持ちを抑えられなかったのである。購入したところでそこまで集中してゲームできないのに、これだけは購入したくなってしまった。

あくる日に妻が掃除機が欲しいというので、家電量販店に足を向けた。ちょうどその日は12月3日、掃除機を購入するだけだったはずのに気が付けば「電車でGO!走ろう山手線」のソフトを購入していたのだ。

この高揚感は何故だろう、どこか懐かしさを感じ、遠い昔の記憶を呼び寄せるようにディスクをゲーム機に入れるのだった。

待ちに待ったゲームが始まる。少年の頃とは全く違うゲーム画面が眼前に広まっていた。進化を遂げていることに感動を隠せなかった。

新しい車両や緻密に再現された東京の街並み、見たことのある風景に思わず通勤している錯覚を覚えてしまう。私も動力車の免許をもっている以上半端な運転は許されない、気を引き締めて運転操作を行う。

グラフィックの美しさに引き込まれ、今まで以上に最高の運転士体験が出来ている。朝、昼、夕暮れ、雨天、大雪と大都会東京の見せる顔つきが一つ一つ違うのである。運転より風景に魅せられているのは、再現度の高いPS4ならではなのだ。

運転すればするほど、気付いたことがある。最近の電車はブレーキの利きが良すぎる。少年運転士のような粗雑な運転操作をすれば一瞬で減速できてしまうのだ。初代「電車でGO!」よりブレーキの利きが強化されているところは最新車両の凄い所であると感じる。

わずか2時間ばかりの運転で、様々な条件下での運転を重ねていくほど懐かしい思い出がよみがえる。しかしそこは運転士、流れていく街並みをみつつ職業病を出てしてしまった。速度計と停止位置から的確なブレーキ操作を行えば、0cm停車まではできないが、合格範囲に止めることが出来ている。

これも成長の証なのだろうか?少年運転士のようなまねごとは出来ない、ここにもプロ意識を出してしまうところが鉄道マンの悲しい所である。

しかも再現度の高さは、車両の性能や風景だけではないのだ。山手線が1周できるのと新駅「高輪ゲートウェイ駅」も収録されている。山手線の1周が出来るのは嬉しいが1時間必要になるのだ。

この1時間を走破できるほどゲームに割く時間が今は無いのが残念である。購入された方は是非チャレンジしてほしい。

電源を入れた瞬間に、誰が何と言おうとコントローラーを握るあなたは運転士なのだ。最高のおうち時間を楽しんでほしい。

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